大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田地方裁判所大曲支部 昭和50年(ワ)49号 判決 1976年5月18日

原告

林武男

ほか三名

被告

有限会社東部運輸

ほか一名

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一申立

一  原告ら

1  被告らは、各自原告林武男に対し金四四万九、二五七円、原告林佐武郎に対し金二九万九、二五七円、原告林重夫に対し金二九万九、二五七円、原告奥山千枝子に対し金二九万九、二五七円および右各金員に対する昭和四八年八月三一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  被告ら

主文同旨。

第二主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

訴外林一郎は、次の交通事故によつて死亡した。

1 発生時 昭和四八年八月三〇日午前〇時二五分頃

2 発生地 新潟県柏崎市関町一番一号地先路上

3 発生場所の状況 イ 歩車道の区分有 ロ 交差点 ハ 舗装 ニ 交通整理の信号機有 ホ 商店街

4 事故区分 出会頭

5 加害車両 運送事業用貨物自動車被告五十嵐運転

6 被害車両 自転車、訴外林一郎運転

7 被害者 訴外林一郎男、六〇歳、頭蓋骨々折、昭和四八年八月三〇日死亡

8 被害者の権利の承継

原告らは、左図の如き被害者との身分関係があり、法定相続分により権利を承継した。

<省略>

(二)  責任原因

1 被告有限会社東部運輸は、加害車両を所有し業務用に使用し自己のため運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により

2 被告五十嵐昭紀は徐行違反の過失によつて、本件事故を発生させたのであるから、民法七〇九条により各自原告らに生じた損害を賠償する責任がある。

(三)  損害

1 葬祭費 四〇万円

原告林武男が全額負担

2 逸失利益 五九六万八、八四七円

(原告ら各自 一四九万二、二一一円)

産業計男子労働者(学歴計)の六〇歳以上の平均賃金を「賃金センサス昭和四九年第一巻第一表」の統計数値によることとすると、次のとおりとなり、訴外亡林一郎の逸失利益は金五九六万八、八四七円となり、原告らは各自金一四九万二、二一一円宛これを相続した。なお、最新の統計数値を利用する関係と、算定を控目にするため、基準日を昭和四九年四月一日とし、就労可能年数を七年間とした。

<省略>

算式

(1) 昭和49年4月~昭和53年3月

2,136,468×0.5×3.56≒3,802,913(円)

(2) 昭和53年4月~昭和56年3月

1,875,268×0.5(5.87-3.56)≒2,165,904(円)

3 慰藉料 原告ら各自一二五万円

4 弁護士費用 一三万円

原告林武男が全額負担

5 損害のてん補

自賠責保険から五〇〇万円受領したので、原告林武男に対し金一四〇万円、その他の原告に対し各自金一二〇万円を充当

(四)  結論

よつて、被告らは各自原告林武男に対し金四四万九、二五七円、その他の原告各自に対し金二九万九二五七円とこれに対する不法行為の翌日である昭和四八年八月三一日より支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払え。

二  請求原因の認否

一 (一)事故の発生認める。

二 (二)責任原因の1認める。同2否認。

三  (三)損害の5認める。その余不知。

三  抗弁

(一)  自賠法三条担書による免責

1 本件事故は、被害者亡林一郎が自転車で信号機の設置されている交差点において、赤信号が点滅していたのに拘らずこれを無視して一時停止することもなく交差点上に侵入したため、折から黄信号の点滅に従い交差点に進行した被告五十嵐運転の加害車両に衝突して発生したものであり、したがつて、右事故はもつぱら右被害者の過失によるものであつて同被告には運転上の過失はない。

2 また、右自動車には構造上の欠陥がなく、被告両名はその運行に当つてなんらの過失も存しない。

3 したがつて、本件事故は自賠法三条但書の免責事由に該当し、原告らに対しなんらの賠償義務も負担しないものといわなければならない。

(二)  過失相殺の主張

かりに、被告五十嵐に運転上のなんらかの過失があり、そのため自賠法三条但書の免責事由に該当しないとしても、その事故の態様からみると、過失の各割合は、被害者亡失林一郎において八〇パーセント、同被告において二〇パーセントとみるのを相当とする。

四  抗弁の認否

(一)  (一)のうち、本件事故の発生につき、訴外亡林にも左の安全不確認の過失のあつたことは認めるが、被告五十嵐が無過失であることは否認する。(一)の2は不知。

(二)  (二)のうち、本件事故につき過失相殺を適用すべきことは認めるが、その割合は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  本件事故の発生については当事者間に争いがない。

二  本件事故の原因につき成立に争いのない乙第一号証(但し、三の場所、六の(二)現場の模様、(四)加害車両の状況、別添見取図第二以外の部分、特に被告五十嵐昭紀の指示説明部分については、乙第一号証が作成後同被告が同書の続み聞けを受け署名押印したものでないことを考えると、同被告本人尋問の結果と反する部分は措信できない。)および被告五十嵐昭紀本人尋問の結果によると次の事実が認められる。

(一)  本件事故現場は、新潟県柏崎市関町一番一号地先のほぼ東西に走る国道八号線(幅員歩道三メートル、車道一〇メートル)と幅員九メートルのほぼ南北にのび西本町方面から野田方向に通ずる道路とが直角に交差する十字路交差点で市街地にあり見通しは悪いがやや明るく、当時は路面は乾燥していた。

(二)  被告五十嵐昭紀は、事故当日加害車を運転し、国道八号線上を新潟市方面から上越市方面に向けて進行し、本件事故現場の手前にある横断歩道橋附近で、自動車のギヤーをハイトツプからトツプに切換え、速度を五二粁位に減速し、別紙図面の地点まで来たところ、点に影を見たと思い、<2>地点でさらにギヤーをサードに切替え、速度を三七粁位に落そうとしたが、誰かがいると確認されず、かつ、対面する信号機は黄色燈火の点滅を示していたので、交差道路からの進入者は無いものと判断し<3>で再びギヤーをトツプに入れて加速した直後西本町方面から本件交差点に向け進行し、対面信号が赤色燈火の点滅であつたが、一時停止することなく交差点に自転車で進入して来た林一郎を点と点との中間に発見した。その時対向車線に大型車が進行して来たので、被告五十嵐昭紀は、林一郎がその対向車に衝突したと思つたが、対向車は無事通過し、加害車両と離合した直後林一郎は加害車両の前に進出し、被告五十嵐昭紀は制動する暇もなく、加害車両前部と林一郎とその運転する自転車とが衝突し、林一郎は頭蓋骨々折で死亡したものである。

(三)  右の事実によると、林一郎は本件交差点に自転車を運転し進入するに際し、対面する信号機が赤色燈火の点滅を示していたのであるから、停止位置において一時停止し、安全を確認して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つた過失により本件事故を惹起したものというべきであるが、被告五十嵐昭紀は、自己の対面する信号機は黄色燈火の点滅を示していたのであるから、他の交通に注意して進行すればよく、具体的に進路上に危険発生を予見した場合以外は徐行義務は無く、交差する道路から進入して来る車両がありとするも、停止位置で一時停止して進入してくるものと信頼して運転すればよいのであるから、被告五十嵐昭紀には本件事故発生につき過失はないというべきである。

三  そうだとすると、本件事故は専ら林一郎の過失行為に基き発生したものであるところ、被告五十嵐昭紀本人尋問の結果によると、本件加害車両には構造上の欠陥および機能上の障害の存在しない事実は明らかであるから、その余の事実につき判断するまでもなく、被告五十嵐昭紀に不法行為の責はなく、被告有限会社東部運輸は自賠法三条但書により免責され、被告両名には本件事故による損害賠償責任は存在しない。

よつて、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、民訴法八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷川邦夫)

別紙 <省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例